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プロジェクトストーリー3

エンジン排気部品 開発ストーリー

大沼 寛

九州工場  製造センター 製造技術グループ長
(現在はHitachi Metals Europeに勤務)
大沼 寛 
OHNUMA HIROSHI
工学研究科機械システム工学修了





Project Story3

10年の時を要して克服した、「熱」という壁。それがNo.1テクノロジーの自信。

100年にわたる日立金属の歴史。なかでも鋳造技術は最も古い歴史を持ち、そのルーツは可鍛鋳鉄製造会社として1910 年( 明治43 年)に設立された戸畑鋳物に遡る。その鋳造技術を100 年後の今日に伝え、エンジン排気部品として卓越した耐熱性能を実現したのが耐熱鋳鋼「ハーキュナイト®-S」シリーズである。今や日立金属の看板製品に成長した「ハーキュナイト®-S」だが、その裏にはエンジニア達の大きな挑戦、そして苦難があったのだった。

カタチのテクノロジーと材料の科学

自動車の技術が克服しなければならなかった大きな課題が「熱」である。内燃機関は燃料と空気が混じりあった混合気の爆発によってエネルギーを得るため、もともと排出ガスは高温になる。そして燃費を向上させ、排出ガス規制をクリアするために、エンジン設計上高負荷運転の際の排出ガス温度は年々上昇している。しかし、その熱に耐える鋳造エキ ゾーストマニホールドの開発はむずかしいものであった。

クルマ好きの人なら、エンジンに直付けされているエキゾーストマニホールドの形を知っているだろう。多気筒化、排気の流れの効率化などのために要求が厳しく、形状は複雑。プレス、溶接という板金加工法で製造できないものは、鋳造によって製造される。シリンダブロックやシリンダヘッドなども複雑形状の鋳造品である。鋳造は自動車産業を支える基幹技術なのだ。

鋳造は古くから使われてきた金属加工技術で、古墳時代の銅鐸やお寺の鐘も鋳造品である。ただ自動車のようなハイテクの塊に使われる鋳造製品は、複雑形状の設計・製造というカタチのテクノロジーとともに、耐熱性・耐酸化性・強度といった材料の科学が必要になる。

日立金属が鋳造エキゾーストマニホールドの開発に携わった1980年代には、850℃程度の耐熱性を持つ製品は既にあったが、エンジニア達は劇的な性能アップを狙った。「950℃」という高いハードルである。今からおよそ20 年前のことだ。しかし、開発は難航する。

 
[写真]エキゾーストマニホールド

▲マニホールド
吸気するインテークマニホールドと、排気するエキゾーストマニホールドがある。
ハーキュナイト®は日立金属の登録商標。マニホールドだけでなく、ターボチャージャーのハウジングなどに使われている。最小肉厚2.5mmという超薄肉で、軽量化にも貢献している。

鋼を鋳造するむずかしさ

上昇する排出ガス温度に耐える材料として狙いは絞られた。ハーキュナイトセンター センター長の大沼寛はこう説明する。「マニホールドのような高温の排出ガスにさらされる部品に求められる性能には、高温になっても変形が生じない耐熱性、高温という酸化されやすい環境に耐える耐酸化性、高速走行と停車で何度も温度が変わる熱サイクルによる疲労に対する強度、とさまざまな要素があります。その最適材料が鋳鋼であることは、最初からほぼわかっていました」。

もう少し材料について説明しておこう。「鉄鋼」という言葉がある。鉄(てつ)と鋼(はがね) の主成分は同じ「Fe」だが、化学成分が違い、物性が異なる。これらの成分で鋳造された鋳物を、それぞれ鋳鉄、鋳鋼と呼ぶのだが、大まかに言えば、鋳鉄は含有炭素量が多くて比較的にもろいが、鋳鋼は炭素成分が少なく、強靭である。もうひとつ性質を決める要素に結晶相がある。重要なのは、フェライト相とオーステナイト相という結晶相だ。つまり、鋳鉄と鋳鋼、フェライト相とオーステナイト相、組み合わせは4つある。

しかし、鋳鉄に比べて、鋳鋼の製造はむずかしい。そもそも溶融温度が違うのだ。鉄は1150℃くらいで溶け始める。鋼は低いものでも1350℃近くまで固体のままだ。この200℃の差は大きい。また鋼は溶けてしまっても、粘度が高いので、さらさらに流れて鋳型の中にスムースに流れるようにするには、溶融金属を1600℃という高温にする必要がある。そして、結晶相によっても製造条件は異なるのだ。もちろん製造コストを押さえ込まないと商品にならない。

10年で「耐熱性950℃」のハーキュナイト(R)-Sが完成。続いて「1050℃」を実現

そのむずかしさを大沼は「鋳鋼製エキゾーストマニホールドの開発は、製造プロセス全体の見直しを意味し、これまでの鋳鉄プラントの技術が転用できなかったのです」と言う。たとえば、鋳造では鋳型の材料として砂を使い、複雑な形状を実現するために「上型」「下型」「中子」と呼ばれる3つの鋳型を組み合わせて、溶融金属を流し入れる。その砂の成分、粒径、温度、水分コントロールなど、多くの技術を新規に開発したのだ。溶融金属が隅々まで行き渡るように鋳型内減圧装置も作った。

個別製品の開発は月単位で進行し、複雑な製品でも2年程度。しかし製造プラントを「鋳鋼で、しかもフェライト相とオーステナイト相で」実現する新規技術で開発するにはそれだけの時間がかかる。

日立金属の技術開発は10年の時を要し、遂に1998 年に、目標であった「950℃」の耐熱温度を持つ耐熱鋳鋼「ハーキュナイト®-S」を高効率製造プラントで実現させたのだ。SはSteel、つまり鋼の略号だ。更に開発の進んだ2002年には耐熱温度1050℃という最高水準の性能を持つハーキュナイト®-S の開発に成功したのである。

 
[写真]ショールーム

九州工場の展示室には世界の自動車メーカーが採用したマニホールドやターボチャージャーのハウジングが展示されている。

大沼は、「1050℃は自動車用マニホールドに求められている性能を満たしており、これ以上の耐熱性は不要」と言い切る。つまり現状ではNo.1テクノロジーなのだ。ハーキュナイト®-Sシリーズは、現在では日立金属を代表する看板製品のひとつに成長している。しかし日立金属の技術者達は、これで全て満足したわけではない。材料や製造技術の更なる改善を目指し、彼らの挑戦はまだまだ続いているのだ。


「機械の4力」がそろい、任せてもらえ、世界的な視野で仕事ができる魅力の数々

「機械の4力」という言葉がある。材料力学、機械力学、熱力学、流体力学の4つが機械工学の基礎というわけだが、多くの技術者はその一部しか使わない。しかし日立金属の九州工場には4つの力学がすべてそろっている。これは大きな魅力だ。

秋山貴之

九州工場 ハーキュナイトセンター 加工グループ長
(現在は(株)NEOMAX鹿児島に出向)
秋山貴之
AKIYAMA TAKAYUKI
化学機械工学科卒



そして日立金属のもうひとつの魅力を「任せてもらえること」と言うのはハーキュナイトセンターで加工グループ長を務める秋山貴之だ。

「鋳造プラントを任されたのは30代前半の時。多額の予算をかけたビッグプロジェクトで、製造ライン設計、設備設計からすべてに携わり、総合プロデュースしました。大規模なプラントの醍醐味を味わうことができましたね」と言う。

大沼は別の魅力を指摘する。キャリアステップだ。日立金属では、20代で開発や工場経験を積んだ後に、海外拠点に異動し国際的に活躍できるケースが多い。大沼自身、2000年から2005 年までドイツのデュッセルドルフに赴任し、自動車メーカーとの技術窓口になっていた経験を持つ。

「ある新車種に搭載されるエンジンの開発と同時にマニホールド開発もスタートします。しかしメーカーによって個性があり、ドイツメーカーは技術志向。慣例にとらわれない奇抜な形状のマニホールドを提示されることがあります。そういう文化の違いが自動車には色濃く反映されているのです」。

日立金属の自動車機器事業部は世界を相手にしている。九州工場の売上高は日本・北米・欧州がそれぞれ3分の1ずつ。エンジニア達のグローバルな挑戦はまだまだ続いている。


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